重度後遺障害と将来損害について

交通事故被害相談 by 弁護士法人心

重度後遺障害と将来損害について

1 重度後遺障害と将来損害

交通事故に遭った結果,重篤な後遺障害が残ってしまった方においては,将来における治療費や付添看護費,将来における家屋改造費などの,将来的な積極損害が生じ得ます。

このページでは,重度後遺障害に関する様々な将来の積極損害(一般的にこれを「将来損害」と言います。)について解説をします。

2 総論

⑴ 将来損害に言う「将来」とは?

ア 問題の所在

「将来」という言葉が持つ本来の意味のみから考えると,交通事故に遭った時点より後に生じる損害を将来損害ということもできそうですし,示談あるいは裁判が終わった後に生じる損害を将来損害ということもできそうです。

それでは,「将来損害」という場合の「将来」とは,実務上,いつのことを言うのでしょうか。

イ 症状固定時による区別

交通事故損害賠償の実務においては,「症状固定後」に生じる損害を将来損害と言うのが一般的です。

なお,ここに言う「症状固定」とは,医学上一般に承認された治療方法をもってしても,その効果が期待しえない状態で,かつ,残存する症状が,自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したときを言います。

⑵ 将来損害の算定方法と賠償の方法

ア 問題の所在

実務上,将来損害は,将来的に当該損害が発生する度にその都度賠償がなされるのではなく,1回の支払いでまとめて全て賠償されることが多くあります(このような賠償の方法を「一時金賠償」と言います。)。

一時金賠償の方法で将来損害の賠償を受けると,交通事故被害者の方は,理論上は,将来損害が実際に発生する時期までの間に,一時金として受け取った将来損害に対する賠償金を運用するなどして利益を手に入れることができるようになります。

そのため,将来損害については,当該損害の満額分の賠償金を受け取ることができるとすると,交通事故被害者の方は,本来よりも運用利益の分だけ得をしうることになってしまいます。

イ 中間利息の控除

そこで,将来損害の賠償においては,将来損害が実際に発生する時点における賠償金の価値と現時点で受け取る賠償金の価値を等しくするために,実務上,上記のような,将来損害に対する賠償金を運用することによって得られうる利益に相当する金額を差し引く,という運用が行われています(これを「中間利息控除」と言います。)。

まとめると,将来損害については,当該損害の発生が実際に見込まれる期間の年数に対応する中間利息を控除した上で賠償金が支払われる,ということです。

ウ 定期金賠償の方法

一時金賠償方式に対して,将来の一定期間,加害者側が定期的に賠償をしていくという方法もあり,この賠償の方法のことを定期金賠償方式と言います。

(ア) 定期金賠償方式のメリット
A 将来の事情変更に対応することが可能

一時金賠償方式による場合,口頭弁論終結時の交通事故被害者の状況等から,将来発生するであろう損害を予測して,損害額を認定することになります(なお,「口頭弁論」とは,極めて簡単に言うと,裁判官の前で,争っている当事者や代理人の弁護士が,互いに主張を述べ合う手続のことを指します。)。

しかし,例えば,施設介護を前提とした一時金賠償を受けたものの,その後,交通事故被害者の方の状況の変化等によって在宅介護を行うことになり,そのために口頭弁論終結時において想定されていた金額よりも将来損害額が増えてしまったなどというような場合も生じ得ます。

この点,一時金賠償方式だと,このような将来の事情変更による損害額の増大には対応することができません。

これに対して,定期金賠償方式であれば,口頭弁論終結後の事情の変動に対しても,柔軟な対応が可能です。

※民事訴訟法117条1項は,定期金賠償方式について,「口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について,口頭弁論終結後に,後遺障害の程度,賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には,その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし,その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。」と定めています。

B 中間利息控除の回避

先ほど述べたとおり,一時金賠償方式の場合,被害者の方が受け取ることができる賠償金は,将来損害の発生が見込まれる期間の年数に対応する中間利息を控除したものとなります(なお,中間利息の控除は,民法所定の年5分の法定利率に基づいて行われますので,将来損害の賠償金が大幅に減少することになる場合も多いです。)。

これに対して,定期金賠償方式の場合は,中間利息の控除を行わずに,将来損害に対する賠償金が支払われることになります。

C 被害者の方の生活保障

一時金賠償方式の場合,将来損害に対する賠償金がまとめて支払われますので,例えば,交通事故被害者の方の介護者が賠償金を浪費したり,計画的に使用しなかったりして,被害者の方が生存しているにもかかわらず賠償金が尽きてしまうというという事態が生じてしまうおそれがあります。

これに対して,定期金賠償方式の場合,賠償金は定期的に少しずつ支払われることになりますので,介護者等による浪費等のリスクは小さくなります。

また,将来損害の内,将来介護費については,本来,まとめて支出することは少なく,日々必要となっていくものですので,一時金賠償よりも定期金賠償の方が実態に近くなるというメリットもあります。

(イ) 定期金賠償方式のデメリット
A 加害者による賠償が途中でなされなくなるリスク

交通事故被害者の方に重篤な後遺障害が残った場合,定期金賠償方式を選択すると,賠償の期間が長期にわたることが少なくありません。

そのため,定期金賠償方式だと,将来的に加害者側の資力が悪化してしまい,途中で加害者側から損害賠償を受けることができなくなってしまう可能性があるというリスクがあります(交通事故事件の場合,保険会社が加害者に代わって賠償金を支払うことが多いため,資力悪化による賠償金の不払いのリスクはさほど大きくはないと思われますが,賠償の期間が20年,30年と長期に及ぶ場合もありますので,その間に保険会社が破綻してしまう恐れもなくはありません)。

なお,加害者による履行確保のリスクに対しては,信託方式を利用することにより対策を取っていくことも考えられています。

B 紛争解決の一回性に欠けるという点

定期金賠償方式の場合,定期金の支払いが長期にわたることが多いため,その分,加害者側との関係も長期にわたって継続することとなります。

このことが交通事故被害者にとって大きな精神的負担となってしまう可能性があります。

C 介護のための初期費用を賄うことのできない可能性

交通事故の被害者の方に重篤な後遺障害が残ると,介護を行う環境を整えるために多額の初期費用が必要となる場合があります。

しかし,定期金賠償方式の場合,定期金として支払われる金額はそれほど大きなものとならないということもありますので,初期費用の捻出が困難となる場合があります。

⑶ 将来損害が賠償される期間

ア 問題の所在

交通事故被害者の方に重篤な後遺障害が残った場合の将来損害は,被害者の方が生存している期間を通じて発生し続けるのが通常です。

そのため,交通事故被害者の方が損害賠償を受けることができる期間は,基本的に,「交通事故被害者の方の生存期間」となるのですが,交通事故被害者の方の生存期間が何年となるかについては,どのようにして判断をすればよいのでしょうか。

イ 一時金賠償方式の場合

この点,示談時や口頭弁論終結時においては,交通事故被害者の方の生存期間が今後何年続くかを正確に把握することは困難です。

そのため,実務においては,一時金賠償方式の場合は,症状固定時が属する年の生命表または簡易生命表上の平均余命を用いて,被害者の生存する期間を算出することが多くあります。

ウ 定期金賠償方式の場合

これに対して,定期金賠償方式の場合は,賠償期間の終期を「被害者が死亡するまで」とすることで,被害者の方が生存している間に発生する損害の賠償を行うことが可能です。

3 各論

⑴ 将来の治療費

ア 基本的な考え方 ~「治療費」と「症状固定時」の関係~

交通事故後に必要となった怪我の治療費は,交通事故と相当因果関係のあるもののみしか損害賠償の対象となりません。

この点,実務においては,怪我の治療費と交通事故との間の相当因果関係の有無を判断するにあたり,症状固定時を確定した上で,症状固定前の治療費は,基本的に交通事故との相当因果関係を肯定し,症状固定後の治療費(これを「将来治療費」ということもあります。)であれば,基本的に交通事故との相当因果関係を否定するという考え方が,一般的に用いられています。

症状固定後の治療費について,基本的に交通事故との相当因果関係が認められない理由は,「症状固定」とは,治療を行っても症状が改善しない状態のことを言うため,一般的に,症状固定後の治療はもはや症状の回復に向けられたものと言うことができず,加害者に治療費の負担をさせるのは不相当であると考えられているからです。

もっとも,判断の対象はあくまで,「支出した治療費と交通事故との間に相当因果関係があるか否か」という点ですから,症状固定前に支出した治療費であっても,不必要であったり過剰であったりする場合は,交通事故との相当因果関係が否定されますし,症状固定後に支出した治療費であっても,後述のとおり,個別具体的に相当因果関係を認めることのできる事情があるのであれば,損害賠償の対象となります。

イ 例外的な場合

症状固定後の治療費であっても,後遺障害の内容・程度・治療の内容等によっては,当該治療の必要性・相当性があると認められ,事故との相当因果関係があると判断される場合があります。

この点,症状固定後に支出した治療費ではあるが,交通事故との相当因果関係があると判断される可能性があるケースについては,一例として以下のようなものが挙げられます。

  1. ①症状固定後も治療を続けなくては症状が増悪する可能性が高く,治療によって症状の悪化を防止する必要性・相当性が認められる場合
  2. ②交通事故が原因で植物状態となってしまった等,生命維持のために治療が必要不可欠である場合
  3. ③症状固定後も強い身体的苦痛が残り,苦痛を軽減するために治療の必要性が認められ,その治療内容が相当である場合

    症状固定後の治療の必要性・相当性は,主治医の意見や,交通事故被害者の方が症状固定後にどのような症状があり実際にどのような治療を受けているか等に基づいて判断されることになります。

    なお,一般的には,重度後遺障害が存した場合には,症状固定後の治療の必要性・相当性が認められやすい傾向にあります。

ウ 症状固定後に治療費を支出する蓋然性

将来行う予定のない治療に関する費用まで加害者が負担するとなると,公平性に欠ける結論となってしまいます。

そのため,症状固定後の治療費が損害賠償の対象として認められるためには,交通事故被害者において,将来的に当該治療費を支出する蓋然性が認められることが必要となります。

実務においては,診断書,診療報酬明細書,カルテ,被害者自身や近親者の方の陳述書,主治医の意見書等の証拠に基づき,症状固定後に予定される治療内容等を主張立証し,症状固定後に治療費を支出する蓋然性を証明していくことになります。

⑵ 将来の通院交通費

将来の治療費と交通事故との間の相当因果関係が認められる場合には,当該治療のために必要かつ相当な通院のための費用は,交通事故と相当因果関係ある損害として,損害賠償の対象となります。

なお,当該交通費が通院のために「必要かつ相当」であるという点については,交通事故の被害者側において,個別具体的に主張・立証しなくてはなりません。

⑶ 将来の雑費

ア 将来の雑費とは?

交通事故被害者の方に重篤な後遺障害が残り介護が必要となった場合,将来の介護のための雑費や介護用品の購入費が請求されることがあります。

将来雑費の種類は,紙おむつ,包帯,カテーテル,尿袋,消毒用品など多岐にわたります。

イ 将来雑費の賠償が認められる範囲

交通事故と相当因果関係が認められ,賠償の対象となる将来雑費は,交通事故被害者の方に後遺障害が残ってしまったことが原因で支出を余儀なくされるもの,言い換えると,健常人の日常生活においても必要とされる費用を超えて要するものに限られます。

すなわち,交通事故被害者の方が請求した雑費が,交通事故がなかったとしても生活に必要となるものに留まるのであれば,交通事故被害者の方に後遺障害が残ってしまったことが原因で支出を余儀なくされる損害ということができませんので,交通事故との相当因果関係が認められず,損害賠償の対象からは除かれることになります。

請求している将来雑費が,交通事故被害者の方に後遺障害が残ってしまったことが原因で支出を余儀なくされるものといえるか否かについては,請求する将来雑費の具体的な内訳・内容等から検討されることになります。

ウ 将来雑費を支出する蓋然性

将来雑費も,将来の治療費の場合と同様に,将来にわたる支出の蓋然性が認められなくては損害賠償の対象に含まれません。

もっとも,将来雑費が必要となる事案の多くは,被害者の方に重篤な後遺障害が残ってしまった事案であると思われますので,将来雑費の支出の蓋然性は,認められることが比較的多いかと思われます。

エ 将来雑費の賠償金額

将来雑費の請求にあたっては,必要となる雑費の項目を挙げて個別に損害額を請求する場合もあれば,日額○○円や月額○○円というように定額で請求を行う場合もあります。

⑷ 将来介護費

ア 将来介護費に関する論点

将来損害の内,将来介護費については,交通事故被害者の方の後遺障害の内容や程度等によって,その金額が極めて高額となる場合が多々あるため,加害者側から争われることが多い項目です。

また,将来介護費に関しては,「介護の必要性」,「介護の態様」,「介護を行う場所」,「介護期間」などに関する多数の論点が存在しますので,順にご説明していきたいと思います。

イ 介護の必要性

(ア) 考慮要素

将来介護費は,当然,交通事故被害者の方が介護を要するような状態に至っていなくては支払われません。

この点,交通事故の被害者に将来介護が必要であるか否かは,交通事故被害者の方の後遺障害の内容や程度,後遺障害を原因とする日常生活動作の制限の内容や程度等を考慮して判断することになります。

(イ)「将来介護費の金額」と「介護の必要性」の関係

交通事故被害者の方の後遺障害の内容・程度がそこまで重篤ではなく,基本的な日常生活動作については行うことが可能であり,一定の場合にのみ周囲の者の補助を必要とするという場合でも,介護の必要性については肯定した上で,将来介護費の金額を減らすことによって個別に調整を行うといった柔軟な対応が取られる場合もあります。

(ウ) 交通事故被害者の方が植物状態となってしまった場合

交通事故被害者の方が植物状態になって施設に入所しているという場合,加害者側から,交通事故被害者の方の生命維持を行うのは施設の職員であり,なおかつ,被害者の方は日常生活動作を行うことのできる状態ではないため,「近親者による」介護の必要性は存在しないと主張されることがあります。

もっとも,交通事故被害者の方が植物状態となってしまった場合でも,近親者の方が被害者の方の回復のために,付き添って身の回りの世話や声掛け等を行うことも多くありますので,交通事故被害者の方が植物状態であるからと言って,一律に近親者の介護の必要性を否定してしまうことは,適当ではないと思われます。

ウ 介護の主体

(ア) 問題の所在

交通事故被害者の方に重篤な後遺障害が残った場合,その介護を近親者が主体となって行うこともあれば,職業付添人が介護の主体となることもあります。

この点,将来介護費の金額は,近親者介護の場合よりも職業付添人介護の場合の方が,将来介護費の金額が高くなる傾向にありますので,被害者側が職業付添人による将来介護を前提として加害者側に将来介護費を請求した場合,加害者側から職業付添人による介護は必要ない,あるいは,職業付添人による介護が行われる蓋然性が存在しないとして争われることが多々あります。

(イ) 考慮要素

職業付添人介護を前提とする将来介護費は,「職業付添人による介護の必要性」と「将来的に職業付添人による介護が行われる蓋然性」が存在しなければ支払われません。

職業付添人による介護の必要性・蓋然性の判断においては,①後遺障害の内容や程度,容態や生活状況,現在行われている介護の状況などといった交通事故被害者の方の要介護状態,②現在に至るまでの介護態勢や介護の主体,③被害者の方と同居している近親者の就労が就労しているか否か,近親者の方の就労に関する意向や就労準備状況,今までの就労の実績などの様々な事情は考慮されることになります。

(ウ) 既に職業付添人による介護が実施されている場合

既に職業付添人による介護が行われているという場合は,近親者が高額な付添費用を支出してまでも職業付添人による介護を必要としている場合であったり,加害者側の保険会社が職業付添人による介護費用を立て替えるなどして職業付添人による介護の必要性を認めていたりする場合であることが比較的多いです。

そのため,このような場合は,職業付添人による介護の必要性・蓋然性についても認めることのできるケースが多いかと思われます。

(エ) 将来的に職業付添人による介護に移行する可能性がある場合

対して,被害者側が,現在は近親者のみで介護を行っているが,将来的には職業付添人による介護に移行する予定であると主張する場合は,職業付添人による介護の必要性・蓋然性の存否が争われることが多くあります。

このような場合,被害者側は,先ほど述べた考慮要素を基礎に,介護の必要性・蓋然性が存在すると主張・立証していくことになります。

例えば,現在介護を行っている同居の近親者の年齢や健康状態等からすると今後も今までどおりに介護を続けていくことが身体的・精神的に困難であるという場合や,家計を維持するために介護を行っている近親者が働きに出なくてはならないような場合,さらには,現在介護を行っている近親者の方が就労の意思を有しており,かつ,就労の蓋然性が存在するというような場合については,職業付添人による招待介護の必要性・蓋然性が認められやすくなると思われます。

裁判例の中には,介護者の身体的負担等を考慮し,近親介護者の労働可能期間の終期(67歳)までは近親者介護で足りるとした上で,それ以降の期間については職業付添人による介護の必要性を肯定したものもあります。

エ 介護の場所

(ア) 問題の所在

在宅介護の場合は,介護のために自宅を改造する必要性が生じたり,車いすや介護用車両を準備する必要が生じたりするため,将来介護費は,施設介護による場合よりもはるかに高額となることが多くあります。

そのため,介護を行う場所に関しては,加害者側から,「在宅介護の必要性は存在しない」などと主張され,争われることも少なくありません。

(イ) 在宅介護の可能性及び必要性

在宅介護に関しては,被害者本人がこれを希望する場合もあれば,近親の介護者が在宅介護を希望することも多くあります。

しかし,在宅介護を前提とする将来介護費が賠償されるためには,当然,介護者において在宅介護を行うことのできる状態でなくてはなりませんし,在宅介護が必要であると認められなくてはなりません。

在宅介護の可能性・必要性については,施設を退所する蓋然性の有無,被害者の方が現在いる施設の性格,在宅介護の可否に関する入所中の施設の職員又は医師の意見,後遺障害の内容及び程度,現在の症状の状況,現在行われている介護の内容,被害者の方の意向,介護を行う予定の近親者の意向,近親者の方が介護の負担に耐えることができるか否か,在宅介護に向けた準備の有無,被害者を受け入れる家の設備及び家庭の状況などの様々な事情を考慮し,判断されることになります。

オ 介護期間

(ア) 原則

他の将来損害と同様に,交通事故によって重篤な後遺障害が残存してしまった方の将来介護費については,基本的に被害者が生存している限り認められます。

前にも述べたとおり,一時金賠償の場合は,被害者の平均余命までの将来介護費が認められるのが通常です。

(イ) 例外

もっとも,将来介護費も,将来治療費等と同様に,将来における支出の蓋然性が認められなくては賠償の対象となりません。

そのため,例えば,交通事故による傷害が原因で被害者の方がその平均余命まで生存しない蓋然性が高まったという場合(特に,被害者の方が植物状態となってしまったような場合)においては,平均余命までの将来介護費の賠償が認められず,賠償の対象となる範囲が推定される生存期間に限られてしまうこともあります。

カ 将来介護費の金額

裁判例においては,将来介護費は,被害者の後遺障害の内容・程度,被害者の要介護状態(常時介護を要するか随時介護で足りるか)・日常生活の自立の程度,必要とされる介護の内容・程度,介護のために必要な時間,介護の主体(近親者か職業付添人か),介護者の年齢や健康状態等の様々要素を総合的に考慮し,将来介護費の金額が算定されています。

この点,公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が編集・発行している「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準(上巻)」の平成30年度版には,介護費の算定基準について,「職業付添人は実費全額,近親者付添人は1日につき8000円。ただし具体的看護の状況により増減することがある。」と記載されています。

なお,「職業付添人は実費全額」といえども,支出を予定している将来介護費が,必要かつ相当なものでなければ,賠償の対象とはならないことには注意が必要です。

⑸ 将来の家屋改造費

ア 問題の所在

交通事故被害者の方に重度の後遺障害が残った場合,交通事故以前に生活をしていた家屋で生活を行うことができなくなってしまい,将来的な介護のためにスロープを設置したり,トイレ・浴室を改造したりするなど,家屋の改造を行う必要が生じる場合があります。

もっとも,家屋改造費を請求する時点においては,将来的に家屋の改造を行う予定はあるものの,家屋改造の内容が具体化していなかったり,改造のための見積りが高額となっていたりするような場合もあるため,加害者側より,家屋改造の必要性・相当性等について争われることが多々あります。

イ 将来の家屋改造費が賠償される範囲

将来の家屋改造費は,交通事故被害者の方の日常生活や介護に必要かつ相当である認められる範囲のものに限り,交通事故との相当因果関係が認められる損害として賠償の対象となります。

そのため,特に必要がないのに自宅にエレベーターを設置するための費用を請求したというような場合は,当該費用は損害賠償の対象とはなりません。

なお,家屋改造の必要性・相当性の有無は,予定している工事の箇所や内容ごとに個別に検討されることが多くなっています。

ウ 考慮要素

将来の家屋改造費の必要性・相当性の判断においては,交通事故被害者の方の後遺障害の内容や程度,被害者の症状や日常生活の自立の程度,必要とされる介護の内容・程度,主治医の意見等の要素が考慮されることになります。

エ 証明の方法

先ほども述べたとおり,家屋改造の必要性・相当性の有無は,予定している工事の箇所や内容ごとに個別に検討されることが多くありますので,工事業者や建築士の作成した設計図や詳細な見積書,後遺障害の内容・程度と介護の内容・設備等に関する主治医の意見書などといった証拠を提出し,個別の工事箇所ごとに工事の必要性・相当性を主張・立証してくことになります。

オ 同居者が享受する便益の評価

(ア) 問題の所在

家屋を改造すると,工事の内容によっては,交通事故被害者の方のみならず,その同居の家族も家屋改造による便益を享受することができる場合があります。

このような場合に,同居の家族にとっても使い勝手が良くなった部分の工事費用を損害額の算定においてどのように評価すべきかが問題となります。

(イ) 同居の家族が享受する便益の評価方法

この点については,家屋の改造が必要かつ相当であると認められるのであれば,家族が当該改造による便益を享受していたとしても,それは反射的な利益にすぎないため,改造費用全額が交通事故との相当因果関係の認められる損害として賠償されるべきだという見解があります。

もっとも,家屋の改造によって同居の家族にとっても使い勝手が良くなった部分については,そのことを全く考慮せずに改造費用全額の賠償を行うことは公平性に欠ける場合があるとし,家族が便益を享受している分を減額をした上で損害賠償が行われるべきであるという見解もあります。

裁判例においても,このような一定割合の減額を行ったものが多くみられます。

カ 家屋の改造以外による対応

交通事故被害者の方の後遺障害の内容や,交通事故前に被害者の方が暮らしていた家屋の状態等によっては,家屋の改造では対応できない場合も多々あるところですし,転居する方が出費が少なくて済む場合もあります。

このような場合においては,必要かつ相当な範囲で,適切な家屋への転居費用や転居後の家賃差額が賠償の対象となる損害として認められることがあります。

⑹ 定期的な交換が必要となる物品の費用

ア 問題の所在

交通事故被害者の方に重篤な後遺障害が残ってしまった場合,義歯,義眼,義手,義足等の装具や,メガネ,コンタクトレンズ,車いす,介護支援ベッド,介護用マットレス,床ずれ防止用マット,段差解消機,吸引機等の各種器具,そして介護用車両などの費用について,必要かつ相当な範囲で賠償がなされることになります。

この点,上記のような装具・器具・介護用車両については,定期的な交換が必要となる場合も少なくありません。

このような物品については,最初の購入費のみしか賠償が認められないとすると,賠償額が過少なものとなってしまいます。

それでは,定期的な交換が必要となる物品の費用については,どのように損害額を算定したらよいのでしょうか。

イ 装具や器具の購入費用

この点,実務においては,まず必要な器具・装具の耐用年数を確定させ(例えば,車いすについては4~5年,介護用ベッドについては8~10年程度とされることが多くあります。),平均余命期間における買換えまでの各期間の年数に対応する中間利息を控除した現時点での価額の合計を損害として認めることが多いです。

例えば,耐用年数が5年の物品で,1回の買い換えについて10万円がかかり,交通事故被害者の方の平均余命が20年であるというケースにおいては,5年ごとに10万円の損害が計4回生ずることになりますので,年5パーセントの中間利息をライプニッツ方式により控除すると,損害額は,10万円×(1+0.7825+0.6139+0.4810+0.3769)=32万5530円となります。

ウ 介護用自動車に関する費用

(ア) 介護用自動車の購入費用に関する賠償の可否

例えば,重篤な後遺障害が残ってしまった交通事故被害者の方の介護のために障害者用の車いすのリフトを備えた自動車を購入したという場合,それが被害者の方の後遺障害の内容や程度,被害者の方の容態や生活の自立性,必要とされる介護の内容等から必要かつ相当と認められるのであれば,当該購入費用も損害賠償の対象となります。

(イ) 将来の買い換えに関する費用

介護用自動車についても将来にわたる買換えが必要な場合があります。

実務では,介護用自動車の買い換え費用に関しても,先ほど述べた定期的な買い換えが必要な装具・器具等と同様に,介護用自動車の耐用年数を確定させ,平均余命期間における買換えまでの各期間の年数に対応する中間利息を控除した現時点での価額の合計を損害として認めるのが通常です。

なお,介護用車両の耐用年数については,税法上の減価償却期間を基礎に6年とする場合や,実際には減価償却期間よりも長期の使用が可能であるとして8~10年とする場合などがあります。

(ウ) 同居の家族が享受する便益の評価

介護用車両は,同居の家族も利用しうるものであるため,家屋改造費の場合等同様に,同居する家族が享受している便益の分を損害額から差し引くべきであるという見解があります。

この点については,実務上,同居する家族が享受している便益の分を損害額から差し引くという観点から,新車の購入費用の一定割合,または,介護車両と一般車両の差額に限って賠償の対象とされることが多くあります。

4 おわりに

以上のとおり,交通事故被害者の方に重篤な後遺障害が残ってしまった場合における将来損害に関しては,様々な論点が存在しますし,なおかつ,将来損害の金額は高額となる場合が多いことから加害者側との間で激しい争になることも多くあります。

そのため,被害者の近親者の方が加害者側との交渉に臨もうとした場合,その対応に苦慮する場面が生じることも少なくないかと思われます。

そのような場合は,早い段階で交通事故に詳しい弁護士に一度相談をしてみることをおすすめいたします。

弁護士法人心には,交通事故被害者の方に重篤な後遺障害が残ってしまった場合における将来損害についても精通している弁護士が多数所属しておりますので,お困りの方は,お気軽にお問い合わせください。

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